みんなの保健室 gomagomaplace 16:災害予防対策と保健活動

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この夏は猛暑だけでなく大型の台風がやってきたり、大雨による土砂災害など誰もが被災するリスクにさらされています。今回は普段の防災に対する準備だけでなく、地域ぐるみでどのような対策や保健活動が必要なのか勉強したものをまとめています。

目次

平常時の災害予防対策と保健活動

市町村単位で実施している保健対策

① 災害時に収集すべき情報のリストを作成し、アセスメントの方法を決定しておく。
② 地区ごとに管内医療機関等の連絡先・位置図を作成(マッピング)し、掲示しておく。
③ 緊急対応の必要な事例および要援護者、療養者のリスト作成と保健指導票を整備する。
④ 地域活動を通して把握した保健・医療・福祉情報について、必要時に情報提供できるように整理しておく。
⑤ 有害化学物質の発生が考えられる工場などについては、保健所が労働基準監督署等と連携し、事故発生時に備えた知見の集積、医薬品の備蓄、環境汚染等への対策を構築しておく。

住民の把握:災害対策基本法において地域防災計画の策定が義務となっています(都道府県・市町村)

2013(平成25)年の法改正では市町村に高齢者、障害者、乳幼児等の防災施策において特に配慮を要する者(要配慮者)のうち、災害発生時の避難等にとくに支援を要する者の名簿(避難行動要支援者名簿)の作成が義務づけられました。
2021(令和3)年の改正では、避難行動要支援者の個別避難計画の作成が努力義務となっています。

高齢者、児童、障害者などの避難誘導は市町村が担当し、難病患者、障害者、在宅人工呼吸器装着者、在宅透析患者などは保健所が担当し、医師会や医療機関と連携体制を構築しておく必要性があります。

災害時の保健活動

災害各期のフェーズとは

緊急対策期(フェーズ0):発災後24時間以内  (フェーズ1):発災後72時間以内

応急対策期(フェーズ2):72時間から2週間まで (フェーズ3):2週間から2カ月まで

復旧・復興対策期(フェーズ4):2カ月以降

復興支援期 前期(フェーズ5−1):復興住宅への移動まで
後期(フェーズ5−2):復興住宅に移動してから

地域の保健師などは疾病予防、要援護者・療養者のケア、健康の維持・増進、生活環境の改善など、健康生活に関する支援を実施していく必要性があります。

緊急対策期(フェーズ0・1)の保健活動

トリアージ

多数の傷病者が発生した場合、現場では以下のように緊急度や重症度に応じて優先順位を考慮し、搬送先を決定していかなくてはなりません。

赤のタッグ(優先度1で最優先治療群)救急治療がただちに必要
黄のタッグ(優先度2で待機的治療群)4〜6時間以内の加療が必要
緑のタッグ(優先度3で保留群)あまり重篤でない傷病者
黒のタッグ(優先度4で死亡群)重篤な損傷のため現状では生存しえない者

また治療に大量の医療資源の投入が必要な傷病者
「生命は四肢に優先し、四肢は機能に優先し、機能は美容に優先する」

クラッシュ症候群

傷ついたり圧迫されたりした筋肉からミオグロビン(タンパク質)やカリウムなどが漏出して急激に全身に広がる。結果、腎臓や心臓の機能が悪化し死亡にいたることがある。

保健師などは救護所への管内情報の提供を行う。また被災地外からくる医療ボランティアに対して情報提供、指示を含め、窓口として機能することが求められます。

応急対策期(フェーズ2・3)の保健活動

① 避難所巡回と避難所の実態把握

定期的な健康チェックを行うほか、衛生環境に対するきめ細かい対応が大切。
食中毒や感染症等に留意しなくてはなりません。

② 情報の整理・提供

被災者以外にも、医療チーム・行政組織・ボランティア・訪問看護ステーションなどからも情報が集まってきます。保健師などは情報の整理を行い混乱を避けるために的確な情報提供を行う必要性があります。

③ 災害時に起こりやすい健康問題

深部静脈血栓症(DVT:エコノミークラス症候群)
低体温症
熱中症
感染症
ストレス関連障害
便秘
一酸化炭素中毒
粉じん
慢性疾患(糖尿病・慢性腎不全・高血圧・喘息・てんかん・統合失調症・難病・結核・・等)
アルコール依存症
生活不活発症

災害復旧・復興期の保健活動

復旧・復興対策期(フェーズ4)の保健活動

生活再建に取りかかる時期であり保健所や保健センターも通常業務を再開します。
被災者・支援者ともに疲労感が最も強い時期です。

復興支援期(フェーズ5−1・5−2)の保健活動

被災者が避難している地域においては、新たなコミュニティーを構築したり、関係機関との連携を図ることが大切です。

復旧・復興期、復興支援期の特徴的な健康問題と保健活動

① 仮設住宅・在宅生活者への活動
早めにセルフヘルプグループを立ち上げるなど、コミュニケーションの場を作ることが大切です。また仮設住宅の生活の実態を観察・把握し、居住者の生活の構築、健康維持を支援するのは保健師などの役割です。

在宅医療の継続ケースや障害者の確認、一般家庭への巡回健康相談を実施して、新たな健康問題の拡大を予測した予防活動、慢性疾患の悪化予防につとめます。

② 被災者の心のケア
精神的なショックから災害症候群(茫然自失、無感動、無表情)が出現。
その後、恐怖、悲哀、喪失体験などが表出します。保健師などが十分受けとめていくことが求められます。

心的外傷後ストレス障害(PTSD)については1カ月以上、強い恐怖や絶望などの心理状態が続き、建設的な生活が送れなくなっている場合は、治療が必要と考えられます。
生活支援、精神医療援護、精神保健相談、カウンセリング等を実施することが有効です。
高齢者に関しては生活環境の変化による認知症の発現や症状の進行に留意しなくてはなりません。

③ 長期支援継続のための連携・調整
長期化すれば被災者の生活支援や心の健康支援が必要となってきます。

災害にはどんなものがある?

自然災害:台風、集中豪雨、洪水、地震、津波、雷、火山噴火、豪雨、森林火災・・・

人為災害:化学物質事故、都市大火災、ビル・地下街火災、炭鉱事故、交通災害、工場の爆発事故、マスギャザリング災害(群衆による将棋倒し等)

特殊災害:放射性物質の放出事故、重油流出事故、有毒化学物質の飛散、CBRNE(シーバーン)災害、感染症の世界的流行、戦争等

CBRNEとは、chemical(化学)、biological(生物)、radiological(放射性物質)、nuclear(核)、explosive(爆発物)の略のこと。

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災害時の保健活動についてもっと詳しく知りたい方は厚生労働省のサイトが参考になります。

文献

医療情報科学研究所(2022)「クエスチョン・バンク 保健師国家試験問題解説 2023 第15版」メディックメディア.
医療情報科学研究所 編(2022)「保健師国家試験のためのレビューブック 2023 第23版」メディックメディア.
一般財団法人 構成労働統計協会(2022)「国民衛生の動向・厚生の指標 増刊・第69巻9号 通巻第1081号」.
医療情報研究所 編(2022)「公衆衛生がみえる 2022-2023」メディックメディア.
標準保健師講座 編集室(2022)「2023年版 医学書院 保健師国家試験問題集」医学書院.
荒井 直子 他 編(2022)「公衆衛生看護学.jp  第5版 データ更新版」インターメディカル.
車谷典男・松本泉美 編(2016)「疫学・保健統計ー看護師・保健師・管理栄養士を目指すー」健帛社.

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